医療法人 原三信病院
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乳がん

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概要

乳房は、出産時に乳汁を分泌する大切な役割をもつ皮膚の付属器官です。その中には「乳腺」と呼ばれる腺組織と脂肪組織、血管、神経などが存在しています。
乳がんはこの乳腺を構成している乳管や小葉の上皮細胞から発生します。 女性の乳がん罹患率(一定期間内の症例数)は, 1975年以降増加傾向が続いています。 女性の罹患するがんの第一位であり、年齢的には30歳代から増加をはじめ,40歳代後半~50歳代前半で ピークを迎えます。最近では、60~80歳代の乳がんも増加しています。

原因・症状

乳がんの発生・増殖には、性ホルモンであるエストロゲンが重要なはたらきをしています。初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産歴がない、初産年齢が遅い、授乳歴がないことなどはエストロゲンの体中のレベルが高くなるためリスクとされています。

腺に発生する腫瘍(しこり)にはいくつかのものがありますが、ここでは代表的な悪性と良性の腫瘍の症状の特徴を説明します。

■乳がん(悪性)は、40歳以上に発生しやすく、月経周期によって変化しません。
腫瘍(しこり)は硬く、周辺組織との境は、わかりやすいものもあれば、わかりにくいものがあります。 早い段階では痛みはありませんが、進行すると痛みをともなうこともあります。

■乳腺症(良性)は、35~45歳頃に発生しやすく、月経前に腫れたり(大きく)、痛むことがあります。
腫瘍(しこり)は柔らかく、周辺組織との境はわかりにくいことが特徴です。

■線維腺腫(良性)は、25~35歳と比較的若い女性に発生しやすく、しこりに弾力性があり、よく動きます。痛みはともないません。

検査

乳がん検査

■視触診:乳房を観察し、左右差、くぼみや隆起、発赤などがないかを診ます。次に、乳房にしこり(腫瘤)がないか、乳頭からの分泌や出血がないか、わきのリンパ節がはれてないかを診ます。
■レントゲン撮影(マンモグラフィ)​:乳房を圧迫しX線撮影する検査です。しこりや石灰化など小さな病変を写し出すことができるため、早期乳がんや乳がん以外の病変を見つけ出すことに非常に有効です。
■エコー検査:乳房にプローブをあてて観察する検査です。しこりの性質がわかりやすく、ベッドサイドなどで手軽に検査ができます。また、30代ぐらいまでの方など乳腺が発達している場合はマンモグラフィよりもエコー検査のほうが有効です。また、エラストグラフィ※1によりしこりの硬さ(柔らかさ)を測定することも可能です。
■MRI検査:放射線を使用せずに磁気を用いて任意の断面写真が得られます。
■針生検・マンモトーム生検:疑わしい病変が見つかった場合、超音波ガイド下でしこりに細い針を刺して、組織を削り取ってがん細胞かどうか調べます。マンモトーム生検では従来の針生検に比べ組織をより大量に採取できます。

1 エラストグラフィ:しこりの硬さを画像化または数値化して評価する検査です。がんは固く、良性病変の多くは柔らかいことがわかっているため、良悪性診断に役立ちます。

乳がんの進行度の検査

「乳がん」と診断された場合、進行度(がんがどれくらい進行しているのか)を確認していきます。がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっているものを「非浸潤がん」、 乳管や小葉を包む基底膜を破って外に出ているものを 「浸潤がん」といいます。

乳がんのステージ分類
ステージ0
(0期)
しこりが乳腺内に溜まっている(非浸潤がん)

ステージⅠ
(1期)

しこりの大きさが2㎝以下でリンパ節転移なし
ステージⅡ
(2期)
しこりの大きさが2~5㎝、もしくは脇の下のリンパ節転移あり
ステージⅢ
(3期)
しこりが5㎝以上、もしくは近くのリンパ節へ転移あり

ステージⅣ
(4期)

骨、肺、肝、脳などの遠くの臓器へ転移

ステージ(進行度)はしこりの大きさ・リンパ節への転移の有無・他の臓器への転移などで分類します。
ステージを分類するための検査として以下のようなものがあります。

■CT検査:乳がんが転移しやすい遠隔臓器である肺、肝臓、骨、リンパ節などを胸部・腹部の断層写真で観察します。
■RI検査(骨シンチグラフィ):がんが骨に転移していないかを調べます。病変のある骨に集まる性質を持つ放射性物質(体内にほとんど害がないもの)を静脈に注射し、3時 間後に特殊なカメラで撮影して画像にします。 全身の骨を観察することができます。

治療

乳がんの治療には手術療法、放射線療法、薬物療法などがあります。これらを組み合わせて治療を行います。乳がんの治療方針は、病期以外に、がんの性質や患者さんの希望を考慮した上で、適し た治療方針を検討して決定していきます。

手術療法

乳がんの手術には、乳房全切除術と乳房部分切除術の2 つの方法があります。

  • 乳房全切除術:大胸筋と小胸筋は残して、乳房全体を切除する方法です。がんが大きい場合や 乳頭への広がりが疑われる場合に行います。
  • 乳房部分切除術:しこりを含めた乳房の一部分を切除する方法です。がんの周囲に1-2cm 程度の安全域をとっ て円形に切除します。しこりが大きい場合、乳がんが乳腺内で広がっているとき、しこりが複数 ある場合には、原則として部分切除術の適応にはなりません。 通常、手術後に放射線照射を行い、残された乳房の中での再発を防ぎます。
    当院乳腺外科では、乳房部分切除を鏡視下手術(ビデオスコープを挿入し、モニターをみながら内視鏡器機を用いて切除)で行っています。
    ​​鏡視下手術の特徴としては下記の項目があげられます。
    • 創が小さく、目立ちにくい手術です:わきと乳輪の縁の2箇所に4cm前後の創のみです。
    • 安全な手術です:内視鏡手術の経験豊富な医師が担当するために安全性に問題なく、手術時間も平 均2 時間前後(リンパ節摘出しない場合)で通常の手術よりやや長い程度です。
    • 保険診療で行えます:乳腺の鏡視下手術は高度な技術と高価な器機が必要ですが、患者さんの経済的負担は通常手術と同じです。
    • 根治性は保たれます:通常手術と同様に腫瘍より2cm 程度の距離をとった切除が行えます。
    • リンパ節摘出もおこなえます:センチネルリンパ節生検(数個のリンパ節を術中に顕微鏡で調べること)で転移があった場合、わきの小さな創からリンパ節摘出が可能です。 鏡視下乳腺部分切除術は創が目立たないとういう美容上の利点に加え、体にやさしい手術といえます。

 

リンパ節について

  • センチネルリンパ節:乳がんからのリンパの流れが最初に到達する乳腺の領域リンパ節のことで指します。日本語に直訳すると「見張りリンパ節」という意味になります。乳がんから転移するときに最初に到達するリンパ節なので、センチネルリンパ節に転移がなければ、多くの場合、わきのリンパ節に転移がないということがわかっています。
  • 腋窩リンパ節郭清:手術時に、リンパ節を含むわきの脂肪組織も切除(腋窩リンパ節郭清)する場合があります。 腋窩リンパ節郭清は、乳がんの領域でのリンパ節再発を予防するだけでなく、再発の可能性を予測し、術後に薬物療法が必要かどうかを検討する意味で非常に重要です。

薬物療法

手術でしこりを切除しても、目に見えないがん細胞が体に残っていて、それが時間とともに大きくなり「再発」という形で現れることがあります。乳房以外の臓器に転移・再発すると、病気を根治 (完全に治す)することは非常に難しくなります。再発の危険性が低くないと考えられる場合は、根治をめざして手術後に薬物療法を行います。
進行再発乳がんに対しては、がんの進行を抑える化学療法を行います。免疫機能を活性化させ、抗腫瘍効果を発揮する新しい機序の抗がん剤が承認されました。
また、遺伝学的検査により、遺伝性乳がんと診断がつけば、治療選択肢に新しい種類の分子標的薬※2を加えることができます。

2 分子標的薬:がん細胞の特定の分子を標的として作用する薬のことです。

ホルモン療法

ホルモン治療は腫瘍にホルモン感受性(女性ホルモンの影響を受けて育つタイプ)がある場合に行います。女性ホルモンをブロックすることによりがんの増殖を抑えます。

放射線治療

体外から乳房(乳がん)に放射線を照射します。手術後に行う場合は、手術で残った可能性のあるがん細胞を死滅させるために行います。
当院では、病巣に対し放射線の強度を変化させながら理想的な線量を照射できる装置(トモセラピー)を導入しています。周囲の正常組織に対し放射線の影響を極力抑えることができるので、副作用の軽減につながります。