間質性膀胱炎・膀胱痛症候群
概要
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群は膀胱に原因不明の慢性炎症が起こり(膀胱や尿道の粘膜表面を保護しているバリアに障害が起こり尿の成分が粘膜に浸みこむために)、尿が近い(頻尿)、膀胱や尿道に不快感や痛みがある、尿が溜まるとその痛みが強くなるなどの極めて不快な症状が現れる病気です。一見、過活動膀胱や細菌性の膀胱炎と症状が似ていますが全く別の病気です。非常につらい症状がありながら他人に理解されにくく、そのことも患者さんのQOLを大きく損ないます。この病気の中でも膀胱粘膜に特有のびらんをともなう「ハンナ型間質性膀胱炎」と呼ばれる病態があり、その中でも重症の患者さんは2015年に厚生労働省の指定難病(226)に指定されました。全国に2000人の患者さんがいると言われていますが実際にはもっと多いと考えられます。
原因・症状
未だ明らかな原因はわかっていませんが、膀胱尿道粘膜のバリアの異常、炎症性の変化、尿の成分への感受性の亢進、微生物の感染などが考えられています。
症状としては典型的には尿を溜めると膀胱が痛い、排尿時や排尿後に痛みや不快感がある、などですが、痛みを避けるために早めにトイレに行く方も多く、1日20-30回という著明な頻尿の方もいます。
また症状に波があるのが特徴で、香辛料やカフェイン、アルコールなどを摂取したり、精神的・肉体的なストレスがかかると悪化する、水分を多めに摂取して尿が薄まると症状が軽減する、女性では生理の前や生理中に症状が悪化するなどの傾向があります。症状が強い方は痛みや頻尿のために、仕事や家事、買い物や旅行など生活に大変な支障をきたすようになります。
検査
■問診:詳しい症状の問診や過去の治療歴により間質性膀胱炎をまず疑うところから始まります。
■検尿:尿を調べることで感染の兆候やその他の異常がないか確認します。
■尿細胞診:尿の中に悪性腫瘍(癌)を疑う細胞が混じっていないか顕微鏡で確認します。
■超音波検査:エコーを体の表面に当て尿路(腎臓や膀胱)の中に他の病気が隠れていないか検査します。
■尿流測定:機器がついたトイレに排尿をすることで、膀胱容量や排尿パターンを観察します。
■残尿測定:排尿後に膀胱内にどのくらい尿が残っているのか、エコーで量を測ります。
■排尿記録:24時間(起床時から翌日の起床時まで)の排尿量と時間を記録します。膀胱に溜めることができる量や尿回数、総尿量から水分摂取量が適切かなど多くのことがわかります。特に間質性膀胱炎の方は一見回数が正常でも水分を控えることでバランスを取っておられることがよくあります。
ここまでは、間質性膀胱炎の可能性があるときに一般的に行う検査です。
これらの他に、
■(特にハンナ型が疑われるとき)膀胱鏡検査:尿道から挿入したカメラで膀胱や尿道を観察します。
■(手術前や特に必要なとき)尿流動態検査:尿道から挿入した細いカテーテルから生理食塩水を注入し膀胱の容量や内部の圧力、排尿時の膀胱収縮力などを測る検査です。膀胱の「尿を溜める力、出す力」を測定できます。間質性膀胱炎の方は膀胱が過敏になり容量が減っている方が多いです。
上記の検査を追加することがあります。
治療
■保存療法:食べ物、飲み物によって症状に波があることはほぼすべての患者さんが感じています。香辛料(唐辛子やわさび、マスタードやカレー粉など)、トマトやネギ類など刺激の強い野菜、酢の物など酸性の強い食べ物、柑橘系の果物,アルコールやカフェインを含む飲料(コーヒーや紅茶、緑茶など)、ビタミンCなどは患者さんの症状が悪化するとされています。上記の摂取を少なくしていくことで症状の改善が図れます。また実際の患者さんでは、寝不足や多忙など身体的なストレス、職場での問題、ご家族の病気や不幸など大きな精神的ストレスがかかった時に症状が悪化することは多くみられます。ストレスを無くすのは難しいですが、可能な限り軽減することで悪化を防げます。また、尿をできるだけ我慢してトイレに行くようにすることで膀胱の容量が増え(膀胱訓練)、尿回数が減りますが、通常他の治療を併用しながら行います。
■薬物療法および手術療法:現在、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療として認められているものは、2010年に保険適応となった膀胱水圧拡張術(手術点数6,410点、64100円)と、2021年に保険適応となったハンナ型間質性膀胱炎に対するジムソ®(DMSO:ジメチルスルホキシド)膀胱内注入の2つだけです。現在、飲み薬の治験が進行中で効果があれば保険適応になる可能性があります。現時点では保険適応となっている薬剤はないですが、症状緩和のために抗アレルギー薬であるIPD:アイピーディー(スプラタスト)、中枢神経の痛み刺激を抑えるトリプタノール®(アミトリプチリン)、また複数の漢方薬などを用いて治療を行っています。痛みが強い患者さんには鎮痛剤やステロイドを用いることもあります。
膀胱水圧拡張術は、麻酔下で膀胱鏡による観察をしながら生理食塩水を600-800mlを目標に注入していきます。拡張することそのものが治療になり、その水を抜いていく時に膀胱粘膜から点状出血を認めることで間質性膀胱炎と診断がつきます。術後は、注入した量の約半分(200-400ml程度)溜められるようになる患者さんが多いです。ハンナ型の場合は先に粘膜びらんの部分を焼灼してから拡張することで劇的な症状の改善が見込めます。現在は外来の膀胱鏡でハンナ型と診断された場合は、先にジムソ®の膀胱内注入を行うこともあります。2週間に1回、計6回、外来で膀胱内にカテーテルを用いて注入する治療です。注入直後は刺激があるため当日や翌日は一時的に症状が悪化する場合がありますが、通常3-4回注入する頃から痛みが軽減してきます。「全然痛みがなくなり、夢のよう」と仰る患者さんもおられます。完全に解明されていない病気であり、アレルギーや内科の病気と同じで、いわゆる「治癒」を目指すことは難しいですが、症状をできるだけ緩和し生活にお困りのない状態に近づけることは可能です。治らない病気、と悲観する必要はなく、食べ物や生活習慣の工夫を行うことにより、ご自分で病気をできるだけコントロールし、通常の生活を行うことを目標にしましょう。
*間質性膀胱炎・膀胱痛症候群は、患者さんのそれぞれの状況や症状の程度によって治療がかなり異なります。以下のような症状をお持ちの方はぜひご相談ください。
・膀胱炎症状を反復する(検尿をしてもきれいと言われる、抗生物質で治らないなども)
・頑固な頻尿で、過活動膀胱の薬を飲んでも症状が治らない。
・排尿してもまたすぐに行きたくなり、いつもトイレのことが気になる。
・尿が溜まると下腹部(膀胱)が痛い、排尿時や排尿後に膀胱や尿道が痛い。