医療法人 原三信病院
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前立腺がん

概要

前立腺は尿道を形成し、精液の一部の成分を作っています。
前立腺がんは前立腺の上皮細胞ががんを形成する病気で、日本では主に60歳以上の男性に多く見られます。近年では遺伝性要因による若年者の発病のリスクも報告されています(遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC))。初期の段階では特徴的な自覚症状はありませんが、病状の悪化とともに排尿障害や痛み、血尿などの症状を認めるようになります。また一般的に病状の進行は緩やかであると考えられていますが、前立腺以外の臓器に転移すると完治が難しくなるため、早期に発見し、その病状に適した治療を行うことが重要です。

原因・症状

早期の前立腺がんでは多くの場合自覚症状はありません。進行した前立腺癌では、以下のような症状がみられることがあります(尿が出にくい等の排尿に関する症状は、併発している前立腺肥大症によることが多く、必ずしも前立腺がんに特徴的な症状とは限りません)。
■尿が出にくい
■排尿の回数が多い
■排尿時に痛みをともなう
■尿や精液に血が混じる
■骨の特定部位に痛み(例:腰痛)がある
■骨折のリスクが高まる
■勃起障害や射精障害:性的機能に影響を及ぼすことがあります。

検査

■直腸診:医師が肛門から指を挿入し、触診で前立腺の状態を確認します。
■血液検査:通常腫瘍マーカーである前立腺特異抗原(PSA)を測定します。患者さんの年齢とPSAの値に応じてphi (プロステートヘルスインデックス)を追加して、さらに詳しく検査する場合があります。
■超音波検査(経直腸エコー検査):肛門から超音波を発する器具(プローブ)を挿入し、前立腺の大きさや内部の性状を調べます。
■MRI検査:前立腺の内部や周囲の組織の異常(がんの発生や周囲への浸潤等)を観察するのに役立ちます。
■CT検査・骨シンチ:詳細な断層画像によって前立腺や周囲の組織、前立腺以外の臓器(肺、肝臓などの内臓、リンパ節、骨)の異常を検出します。CTでは必要に応じて、造影剤を使用し、より詳しく検査する場合もあります。
■前立腺針生検:前立腺がんの疑いがある場合には、がんの診断を確定するために行われます。超音波やMRIの画像を参考に、組織採取用の検査針を使用して前立腺組織を採取し、顕微鏡で詳しく観察され、がんの有無、その悪性度(グリソンスコア)について診断します。

前立腺針生検で『がん』と診断された場合、CT、骨シンチで全身の精査を行い、病期(ステージ)を決定します。この病気に応じて治療方針を検討します。

1. 限局性前立腺がん: 前立腺内にとどまり、転移のないがんです。
2. 局所進行性前立腺がん: 前立腺の周囲に広がっているがんですが、周辺組織やリンパ節への転移はみられません(前立腺被膜浸潤、精嚢浸潤)。
3. 転移性前立腺がん:リンパ節や骨などに転移がみられます。

治療

前立腺がんの治療法には以下のような方法があります。

■PSA監視療法(無治療経過観察):診断後すぐに治療を行わず、定期的なPSA(前立腺特異抗原)値の測定と画像検査、前立腺針生検を継続しながら、治療が必要なタイミングで適した治療を開始する方法です。必要な条件を満たした超低リスクがんで選択することが可能です。
■外科的治療:前立腺全体と精嚢(せいのう)を摘出し、膀胱と尿道を吻合する手術です。必要に応じて、前立腺近く(骨盤内)のリンパ節も一部取り除かれることがあります(リンパ節郭清)。この手術では出血を最小限に抑え、術後の尿失禁を減らすことが重要ですので、当院では手術支援ロボット(da Vinci)による手術を行っています。
■放射線治療(外照射療法): 外部から放射線を照射し、がんを死滅させる治療法です。現在は、高精度放射線治療である強度変調放射線治療(IMRT)が標準的な治療法とされています。IMRTでは正常組織の被曝を最小限にしつつ、がん組織に放射線を集中的に照射することが可能です。
※他に小線源治療(組織内照射)、重粒子線、陽子線による治療があります。放射線治療をはじめとした、手術を行わないこれらの治療では、前立腺がんの病状に応じた薬物療法(抗男性ホルモン療法)が必要です。

■薬物治療:前立腺がんの薬物療法では、去勢感受性がんと去勢抵抗性がんの異なる病状に応じた薬剤が使用されます。
去勢感受性前立腺がん(Castration-Sensitive Prostate Cancer):去勢感受性前立腺がんは体内のテストステロン(男性ホルモン)に依存して成長するがんで、テストステロンの体内の濃度を下げる薬剤(ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト・アンタゴニスト、アンドロゲン受容体阻害薬)を使用し治療します。しかしながら治療にも関わらず去勢感受性前立腺がんが進行し、去勢抵抗性前立腺がんへ悪化することがあります。この場合は、新規アンドロゲン受容体阻害薬や抗がん剤、Ra223による治療を追加します(逐次治療)。また進行した病状で診断された無治療の去勢感受性前立腺がんでは、はじめから新規アンドロゲン受容体阻害薬や抗がん剤で治療を開始します(従来の抗アンドロゲン治療と比較すると、生存期間の延長が期待できると考えられています)。

■ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト・アンタゴニスト
■アンドロゲン受容体阻害薬
■新規アンドロゲン受容体阻害薬
■抗がん剤(ドセタキセル、カバジタキセル)
■Ra223(ラジウム223):骨転移治療薬(放射性医薬品)

前立腺がんでは特定の遺伝子の異常ががんの発生や進行に影響することが知られており、代表的な遺伝子にBRCA1とBRCA2があります。これらの遺伝子に関する検査は、新規アンドロゲン受容体阻害薬使用後に行うことが可能で、遺伝子異常が診断された場合、PARP阻害薬の使用が医療保険で認められています(代表的なBRCA遺伝子変異の発見率は10-15%程度と報告されています)。