腹壁ヘルニア
概要
下腹部の鼠径部と呼ばれる部分の腹壁に小さな穴が開き、腸などが脱出して、膨隆することから、俗に、「脱腸」と呼ばれることがあります。小児から大人まで発症し、一般的には子供の病気と思われがちですが、むしろ成人に多く、手術以外の治療方法はありません。米国では年間80万人が手術を受けていますが、日本では15万人と5分の1以下であり、病気の場所から「恥ずかしい病気」のイメージがあるのではないかと思われます。
痛みも少なく短期入院で済む新しい手術方法も普及しており、生活の質を考慮すれば、積極的に治療した方が良い病気です。
原因・症状
成人鼠径ヘルニアの80%は男性で、高齢者に多く、60~ 70歳にピークがあります。加齢により体の組織が弱ることと腹圧の上昇がその発生に関与しており、製造業や立ち仕事の人に多く、それ以外にも便秘症、肥満、前立腺肥大の人は要注意です。喫煙は、組織を弱らせ、セキにより腹圧がかかるため、鼠径ヘルニアの大きな危険因子と言われています。
症状は、立ったときに大きく腫れ、横になったり、手で押さえたりすると引っ込みます。病状が進むと、ふくらみが硬くなり、手で押さえても元に戻らなくなり、お腹に強い痛みや吐き気を感じるようになります。そのような症状を「嵌頓」と言い、脱出した腸が壊死を来すことがあります。その様な症状が見られる場合は、直ぐに、病院を受診してください。
検査
■身体診察:医師は、鼠径部に触れたり、咳をするよう指示することで、ヘルニアの存在や大きさ、痛みの程度などを判断します。
■超音波検査:超音波検査は、音波を使って内部の組織を観察する検査です。ヘルニアの存在や大きさ、内容物の種類などを確認するために使用されます。
■CT検査:CT検査は、軟部組織や骨をX線で撮影する検査で、鼠径ヘルニアの場合、ヘルニアの存在や内容物、周囲の組織の異常などを観察するために使用されます。
治療
成人の場合、手術以外に根治の見込みはありません。手術を行わなかった場合、膨隆が、徐々に増悪することがあります。ヘルニアバンドは、臓器の癒着や壊死の危険性があり、圧迫によりかえって組織を弱らせるため、使用は勧められません。
手術の場合、以下の方法があります。
■腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術:全身麻酔下に行います。腹壁の穴(ヘルニア門)を閉鎖するためには、メッシュという人工の膜を用いますが、通常の開腹手術に比べると、正確な診断のもとメッシュを確実に設置でき、再発が最も少ないといえます。また傷が小さいため、美容上のメリットが大きく、術後回復が早いのが特徴です。臍部や下腹部に3カ所程の小切開(1~2cm)を加えて、専用のポートを挿入し、炭酸ガスを送り込み、腹腔鏡で観察しながら、専用の鉗子類を用いて鼠径ヘルニアを修復します。所用時間は60-80分程です。
■鼠径ヘルニア修復術(前方アプローチ):比較的大きな鼠径ヘルニアの場合や、泌尿器科術後(前立腺全摘後など)に行われます。ヘルニア門の閉鎖に、メッシュという人工の膜を用います。手術時間は30~60分程です。